債務超過している会社でもM&Aできる?

結論:債務超過している会社であっても、M&Aは可能です。

この記事では債務超過の概要や、債務超過企業がM&Aをするときの注意点、債務超過企業に最適なM&Aの手法について解説します。事業継続や倒産の回避、売却益による弁済などメリットも多いですから、少しでも負債を減らしたい方は参考にしてください。

M&Aといえば、業績がいい企業が行っているイメージがあるのではないでしょうか。

しかし、近年では新型コロナウイルスの影響で業績が悪化し、債務超過している企業も増えてきています。

そのような会社であっても、M&Aは可能なのでしょうか。

今回は債務超過している会社がM&Aできるのかどうかについて詳しく解説します。

少しでも負債を減らしたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

債務超過していてもM&Aはできる!

結論から言うと、債務超過している会社であってもM&Aは可能です。

ただし、債務超過をしているという事実は、買い手側にとってデメリットの一つです。

実質財産評価(事業価値-債務)がプラスであれば十分に買い手側にメリットが見えます。

実質財産評価(事業価値-債務)がマイナスの場合には、買い手側にメリットが見えづらいです。

この実質財産評価がマイナスというデメリットがあったとしても、そのマイナスを補えるメリットがあればM&Aを成功させる可能性は十分にあります。

債務超過とは?

まず債務超過という言葉の意味を理解しているでしょうか。

債務超過は、会社の負債総額が資産総額を上回っていて、純資産がマイナスになっている状態です。

純資産は「資産総額-負債総額」で計算できます。

債務超過になっている場合、全ての資産を売却したとしても負債を返済することができません。

個人で例えた場合、持ち家や車、宝石、家電などお金に変えられるもの全てを売ったとしても、借金が払えない状態です。

会社の資産や負債、純資産に関しては、貸借対照表を見ればわかります。

資産に含まれるのは売掛金や普通預金、現金、在庫、不動産、機械設備などです。

負債に該当するのは、未払金や買掛金、未払費用、支払手形、短期借入金などがあります。

純資産は返済義務がない企業が持っている資産で、資本金や利益剰余金などのことです。

貸借対照表の上で負債が資産を上回っていることを簿価債務超過といいます。

ただし、貸借対照表に書かれているさまざまな金額は、帳簿に記載した時点の状態に基づいているため、正確に資産・負債を反映していないケースも多いです。

資産・負債の実態を正確に把握し、債務超過しているかどうかを把握するためには、時価に修正する評価替えを行った実態貸借対照表を使用します。

実態貸借対照表で資産が純マイナスになっている場合、実質債務超過と呼ばれる状態です。

簿価債務超過ではなくても、純資産が時価の修正によって減ってしまえば、実質債務超過になることもありますので気をつけましょう。

債務超過=倒産ではない

債務超過は会社が保有している資産では負債を賄えない状態ですから、経営危機にある状態といえます。

ただし、債務超過しているからといって、すぐに倒産してしまうというわけではありません。

例えば、開業したばかりで初期費用などによって売上より支払いが多い状態も債務超過ですし、新規事業のために設備投資を行って負債が増え過ぎてしまった状態でも債務超過にあたります。

ただし、売上が伸びずに負債額が多い状態が長く続くと、経営難になってしまう可能性がありますので注意が必要です。

債務超過と赤字の違い

赤字とは年間売上が年間支出を下回っている状態です。

1年単位で見るもので、損益計算書を見ればわかります。

安定して黒字を叩き出している会社でも、経費や設備投資などによって支出が増えてしまうと、一時的に赤字に転じてしまうことは珍しくありません。

赤字の場合は、翌年売上が伸びれば脱することができます。

ただし、赤字が何年も続いている状態では、毎年の赤字が積み重なった結果、債務超過になってしまう可能性が高いです。

赤字=債務超過ではありませんが、赤字を積み重ねていけば債務超過になってしまうことを理解しておきましょう。

債務超過と資金ショートの違い

資金ショートとは、文字通り手元にある資金がショートしてしまっている状態です。

資金がないため、さまざまな支払いができず、そのままにしておけば倒産してしまいます。

取引先への入金などもできないので、会社としての信頼も失ってしまうでしょう。

資金ショートは黒字が続いている状態でも起きてしまうもので、債務超過よりも倒産リスクは高くなります。

債務超過企業のM&Aは注意が必要

債務超過企業であっても、メリットがあればM&Aは可能です。

ただし、債務超過している企業が事業譲渡をする場合、詐害行為と判断されてしまうリスクがあることも理解しておきましょう。

詐害行為は、債権者の利益を害することをわかっているのに、債務者が自身で保有する財産を減らす行為です。

詐害行為は債務超過企業が、債権者への弁済から免れるために行われることが多いです。

本来は、会社が倒産する際に債務者が財産を換金して、それによって得たお金を債権者に弁済しなくてはなりません。

しかし、それ以前に会社の資産が第三者に贈与されたり、低すぎる価格で売却されたりすると、換金できる資産がなくなるため、債権者への返済が不可能になってしまいます。

債務超過企業がM&Aで事業譲渡をする場合、買い手側は資産のみを引き継ぐことができます。

債務超過している売り手側の債権者からすると、資産だけが買い手側に移ってしまうため、弁済を受けられなくなる可能性が生じてしまうのです。

債務超過企業がM&Aをして弁済を受けられないと判断すると、債権者は法律で保証されている詐害行為取消権を行使できます。

その場合、M&Aが成立していたとしても無効になりますので注意してください。

また、詐害行為取消権を行使しない場合でも、債権者が買い手側に買収代金を多く支払うよう要求する可能性もあります。

債務超過企業に適切なM&A手法と手順

詐害行為とみなされてしまうと、せっかくM&Aを成立させても無効になってしまう可能性があります。

では、債務超過企業に適切なM&A手法はどのようなものなのでしょうか。

手順も併せて解説します。

株式譲渡

株式譲渡は、会社を経営する権利を株式で買い手に譲渡する手法のことです。

株式譲渡をした場合、売却した会社は買い手の子会社として残ります。

M&Aにはさまざまな手法がありますが、株式譲渡は比較的手続きが簡単なので、よく用いられる手法です。

株式譲渡の場合は、負債や赤字も引き継がれます。

従って、負債や赤字を引き継いででも、シナジー効果によってもたらされるメリットが期待できる場合でしか難しい手法です。

目に見えない資産である営業権(会社のブランドやノウハウ、人材など)を引き継ぐことを目的として、債務超過があっても株式譲渡で買収されるケースがあります。

株式譲渡は以下の手順で進められます。

  1. 自社における株式譲渡制限を確認する
  2. 株式譲渡承認請求を行う(譲渡制限がある場合)
  3. 取締役会・株主総会で承認をもらう
  4. 株式譲渡契約を結ぶ
  5. 株式譲渡の承認請求を行う
  6. 株主の名義を変更する
  7. 株主変更手続きをする

事業譲渡

売り手企業が行っている事業のうち、特定の事業だけを買い手企業に譲る方法です。

会社の全てを譲渡する訳ではないため、買い手側が望まない限りは負債や赤字を引き継ぐ必要はありません。

売り手側は事業譲渡によって得た売却益を債権者への返済に充てられます。

事業譲渡は採算が取れていない事業を売却する際にも活用されますし、逆に採算が取れている事業で、売却によって大きなリターンが望める場合にも活用される手法です。

事業譲渡は以下の手順で進められます。

  1. 事業譲渡の準備を始める
  2. 取締役会で承認をもらう
  3. 買い手企業を選定して接触を図る
  4. 基本合意書を締結する
  5. 買い手企業によってデューデリジェンス(買収監査)が行われる
  6. 事業譲渡契約書の締結を行う
  7. 各所に届出を出す
  8. 株主に通知を行い公告する
  9. 株主総会で特別決議を行う
  10. 財産などの名義変更手続きと許認可手続きを行う

吸収分割

吸収分割は、会社が特定の事業に関して持っている権利や義務の全部もしくは一部を既存の会社に引き継ぐ手法で、会社分割方法の一つです。

採算が取れていない事業の売却に活用されます。

事業譲渡​​と似ているものの、事業譲渡より手続きが簡易なのが特徴です。

吸収分割は分社型吸収分割(物的吸収分割)と分割型吸収分割(人的吸収分割)の2種類に分類できます。

分社型吸収分割(物的吸収分割)は、事業を受け渡す分割会社が分割した事業を、譲り受け側の承継会社に渡し、承継会社から分割会社には株式や金銭などを渡す手法です。

一方、分割型吸収分割(人的吸収分割)は、事業継承の対価として、承継会社から分割会社の株主に株式や金銭などを渡す方法です。

吸収分割は以下の手順で進められます。

  1. 吸収分割契約を締結する
  2. 分割会社・承継会社に事前開示書類を備置する
  3. 分割会社は労働者に事前通知を行う
  4. 反対する株主に対して、株式買取請求通知を送付する
  5. 債権者保護手続きを行う
  6. 株主総会の特別決議で承認を得る
  7. 登記申請をする
  8. 分割会社・承継会社に事後開示書類を備置する

新設分割

新設分割は会社分割方法の一つで、買い手側となる企業が新しく設立した会社に買収した事業を引き継がせる手法です。

新設分割をする場合は、子会社の事業として買収した事業を独立させることが可能です。

新設分割は分割型新設分割と分社型新設分割に分けられます。

分割型新設分割は、売り手側の株主に買収した事業の対価が支払われる方法です。

一方、分社型新設分割は、売り手側企業に買収した事業の対価が支払われます。

また、複数の分割会社によって新設分割を行う場合は、共同新設分割です。

事業を買収した対価は必ず株式で支払われるため、債務超過がある場合に新設分割する場合は、その株式が処分可能かどうかを確認しておかなければなりません。

新設分割は以下の手順で進められます。

  1. 分割計画書を作成する
  2. 分割会社に事前開示書類を備置する
  3. 労働者に事前通知を行う
  4. 反対する株主に対して、株式買取請求通知を送付する
  5. 債権者保護手続きを実施する
  6. 株主総会の特別決議で承認を得る
  7. 登記申請を行う
  8. 分割会社と新設会社に事後開示書類を備置する

第二会社方式

債務超過企業で高い収益がある事業を、会社分割や事業譲渡で他の会社に移転させ、採算が取れない事業が残った会社を破産や特別清算によって法人格を抹消し、事業の再生を図る手法です。

高い収益がある事業を売却することで、弁済にあてる費用を捻出できます。

この手法は経営再建を目的とする再生型M&Aに該当する手法です。

高い収益がある事業を残すことで、失業や取引会社の連鎖倒産などを避けられます。

第二会社方式の手順は、事業譲渡と会社分割のどちらを手法として用いるかによって変わってきます。

吸収合併

2つ以上の会社が資産と負債を一つにまとめることを合併と言います。

債務超過をしている会社であっても、吸収合併であれば合併が可能です。

吸収合併の場合、債務超過している会社は消滅します。

債務超過がある会社の場合、簡易合併はできません。

吸収した会社は、自社の黒字をもって合併した会社の赤字を相殺できます。

その結果、法人税額が抑えられるというメリットがあります。

消滅する会社も事業を継続できますし、従業員の失業も防げます。

ただし、吸収した会社は銀行や株主から批判を受ける可能性があるため、株主総会で合併の経緯やシナジー効果などを説明し、承認を得なければなりません。

承認は効力発生日の前日までに受ける必要があります。

吸収合併は以下の手順で進められます。

  1. 吸収合併契約を締結する
  2. 必要書類を準備する
  3. 官報で公告する
  4. 両社ともに株主に事前通知する
  5. 両社ともに株主総会で特別決議を行い承認を受ける
  6. 登記申請をする
  7. 合併に関する書類を備置する

債務超過企業でもM&Aは可能!しっかり準備をしておこう

債務超過企業であっても、M&Aは可能です。

ただし、債務超過というデメリットを抱えているわけですから、買い手側が魅力に思うようなメリットがなければ、実現は難しいでしょう。

自社の魅力を洗い出して、準備しておく必要があります。

また、事業譲渡をする場合は、詐害行為に当たらないように注意しなければなりません。

今回紹介した通り、債務超過企業のM&Aはいくつかの手法があります。

自社にとってどの手法が最適なのかを見極めることも大切です。

判断が難しい場合は、専門家に相談してみましょう。

>全国M&A支援協会

全国M&A支援協会

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