赤字は経営破綻や倒産のイメージにつながりやすい言葉です。何らかの対策を取って黒字化を目指さなくてはいけません。しかし、すべての赤字が悪いものではなく、赤字によるメリットもあります。赤字の種類や性質、対策方法などをわかりやすく解説します。

会社の赤字は、損失が収益を上回っている状態です。
しかし、必ずしも赤字が経営難を意味しているわけではありません。赤字の種類や原因を知って、自社が置かれている状況を理解しましょう。
本記事では会社の赤字についてわかりやすく解説します。
社長が取るべき行動や、赤字対策もお話ししますので、ぜひ経営の見直しにお役立てください。
赤字って何?
赤字とは、会社から出ていく金額が入ってくる金額を超過している状態や、超過している額そのものを指します。
赤字は主に4つのタイプで判断され、それぞれ異なる性質があり深刻度も違います。
売上総利益の赤字
売上総利益の赤字とは、売上から売上原価を引いた金額がマイナスになった状態です。
業種によって売上原価に含むものは異なりますが、いずれの場合も「仕入れた商品や製造した商品を販売しているのに赤字になっている」ことを示します。
予定の価格で売れずに値下げしたことや、外注費が想定以上にかかったことなどが原因で売上総利益の赤字が発生します。
この赤字は赤字のなかでも深刻なものです。経営破綻に直結する赤字であるため、早急に何らかの対策をしなくてはいけません。
営業利益の赤字
営業利益の赤字とは、売上総利益から一般費及び販売管理費を引いた金額がマイナスになった状態です。
設備の維持費や販売にかかる費用などの負担が大きく、赤字になっています。
一般費および販売管理費には、人件費や経費、維持費などの間接的な費用が含まれています。
会社の本業で赤字が出てしまっていることを示しているため、前述した売上総利益の赤字に次いで深刻な状態です。
経常利益の赤字
経常利益の赤字とは、営業利益から営業外損益を加減した値がマイナスである状態です。
営業利益や営業外収益を、利息の支払いや支払手数料など本業とは関係のない財務活動による費用が上回っていると発生します。
営業外損失には退職金も含まれるため、退職者が多い年や役員が退職した年などは、一時的に経常利益が赤字になることがあります。
赤字の原因がはっきりしている場合は問題ないとされることが多いですが、赤字が続く場合や、原因が明確でない場合は危険な状態です。
とくに金融機関は経常利益の赤字を嫌う傾向が強いです。
融資を受けにくくなるため、経常利益の赤字を発端に経営不振に陥るケースも多々あります。
税引前当期純利益の赤字
税引前当期純利益の赤字は、経常利益から特別損益を加減した値がマイナスになった状態です。
特別損失は、固定資産売却損や自然災害や盗難による損失など、臨時に発生した損失を指します。そのため、赤字になった場合でも一過性のものであることが多いです。
4つの赤字のなかでは問題視されることが少ないものですが、売却損による赤字の場合は繰り返さないように注意しなくてはいけません。
会社が赤字になるとどうなる?

会社が赤字になってしまった場合、どのような変化が起こるのか知っておきましょう。
赤字になったら会社はつぶれる?
会社が赤字だと聞くと、すぐに経営破綻や倒産といった深刻なイメージを持ちやすいです。
しかし、赤字には前述したように種類があり、経営危機に直結しないものもあります。
また、深刻であるとされる売上総利益や営業利益の赤字だとしても、必ずしも経営が危なくなるとは限りません。
たとえば、今期が赤字になってしまった場合でも、前期までの収入が黒字であれば赤字が続かない限りは会社が継続できます。
また、社長がお金を持っている場合は社長個人が会社に融資するかたちで経営を存続できます。
赤字になったら従業員の給料はどうする?
売上総利益や営業利益が赤字になると、会社の資金繰りは厳しくなっていきます。そして従業員の給料や賞与を含めて、支払うべき費用が支払えなくなります。
しかし、資金繰りが苦しくなったからといって、経営者の判断で給与の支払を止めたり、減給したりすることはできません。労働基準法により、給与は月に1回以上支払うことが定められているからです。
もしも給与を支払うためのお金が用意できない場合は、経営者の私有財産を処分したり、借入をしたりして現金を用意しなくてはいけません。
また、役員報酬は給与よりも優先度が低いです。役員報酬を削って、その分を給与支払に回すなど、何らかの手段を取る必要があります。
赤字でもつぶれない会社とは?
ニュースや新聞では、しばしば大企業の赤字が取り上げられます。
しかし、大きな赤字を出したと報道された企業でも、その後変わりなく経営を存続させています。
赤字でも会社がつぶれない理由は、資金が枯渇していないからです。
赤字とは資金がなくなることではなく、あくまでも「利益を損失が上回った」ことを示しています。
つまり、赤字であったとしても会社を継続させるための現金や預貯金があるか、足りなくなった場合でも金融機関からの融資を受けられれば会社はつぶれません。
赤字でもつぶれない会社は多く、国税庁のデータによると6割以上の中小企業が赤字であるとされています。[注1]
しかし、赤字が続けばいずれは資金繰りが厳しくなり、経営破綻につながります。
赤字でもつぶれない会社は多いものの、決して赤字状態を軽視してはいけません。
[注1]国税庁:国税庁 統計情報
赤字をどうする?

赤字は一時的なものであれば問題ないことが多いですが、連続して赤字になる場合は早急に対応を考えなくてはいけません。
赤字になった場合に考えられる改善策を知っておきましょう。
経営者がどうしたいか
赤字になったときに重要なのは、現状把握と方針の決定です。
赤字になった原因や会社の財務状況などを把握し、経営者が今後の方針を明確に決めることで、赤字に対してどのような対応ができるか見えてきます。
赤字の改善策は、会社の状況に応じて、複数の方法から経営者の希望とすり合わせて決めるのが一般的です。
選択肢としては、会社の立て直し・廃業・事業譲渡・M&Aが挙げられます。
選択肢その①立て直し
現在の会社や事業を維持したまま、赤字を減らして黒字に変えることが立て直しです。
数期に渡って赤字が連続している場合や、すでに経営破綻しかけている会社の場合は難しいですが、赤字になったばかりの会社であれば十分に立て直せる可能性があります。
会社を立て直すには、利益を増やして損失を減らすことが重要です。
そのためによく取られる方法には以下のようなものがあります。
- 人件費の見直し(リストラ・役員報酬のカットなど)
- 不採算事業の縮小・撤退
- 経費の削減
- 収益性の高い事業への経営資源投下
経費には外注費や広告費なども含まれており、大幅な削減が可能なことも多いです。
また、会社が保有している車や不動産などの資産を売却し、資金を作ることも経営の立て直しにつながります。
選択肢その②廃業
廃業とは、原因を問わず経営者の意志で事業をやめることを指します。
基本的には、廃業以外の方法がまだある状態で、事業をやめることを選ぶ場合を廃業と呼びます。
赤字が続いていて今後黒字化させる見通しが立たない場合や、商品やサービスに将来性がない場合などに選ばれることが多いです。
債務が支払えなくなった場合や、資金が枯渇して事業を続けられなくなった場合などは、廃業ではなく倒産とされます。
また、会社更生法や民事再生法に基づいた手続きを開始した場合も、倒産です。
選択肢その③事業譲渡
事業譲渡は、後述するM&Aのひとつで、事業の全部や一部を第三者に譲渡することをいいます。
譲渡した対価に現金を受け取れるため、収益性が低い事業のみを譲渡して、残した事業の立て直しを目指すことも可能です。
事業譲渡のメリットは、従業員の雇用を守り、取引先への影響を最小限にとどめられる点です。
また、事業譲渡では事業だけでなく人材や設備、取引先との関係、ノウハウ、ブランド力なども譲渡先に引き継がれます。
廃業するとすべてを失ってしまいますが、事業譲渡であれば存続できる見込みがあります。
複数の事業を展開している会社や、専門性の高い事業をしている会社は、事業譲渡を検討することで、立て直しが可能になることも珍しくありません。
選択肢その④M&A
M&Aには、前述した事業譲渡を含む6つの手法があります。
- 事業譲渡
- 株式譲渡
- 会社分割
- 株式交換・移転
- 合併
- 第三者割当増資
このうち、赤字会社で選ばれることが多いのは、事業譲渡・株式譲渡・合併です。
株式譲渡はM&Aの代表的な方法で、自社株式を譲渡して経営権を移転させます。
経営権がそのまま別の会社に移転するため、従業員の雇用契約や債権・債務なども引き継がれるのが特徴です。
しかし、経営者が変わることで方針も変更され、そこでリストラや雇用契約の変更が発生する可能性があります。
合併は2つ以上の会社を統合することです。
赤字企業と黒字企業が合併するだけでなく、赤字企業同士が合併することもあります。
合併するメリットは、黒字企業側の節税になることや、シナジー効果によって赤字から脱却できる可能性がある点です。
赤字企業のM&Aは、第三者が会社に価値があると判断しないと成功しません。
そのため、必ずしも赤字対策になるとは限りませんが、専門性が高い業種や、ブランド力、人脈、ノウハウなどに強みがある場合は可能性があります。
赤字になったときに社長がすべきこと

赤字になった場合は、できる限り早く黒字化するために対策を始める必要があります。
社長がすべき3つのことを知っておきましょう。
1. 利益率の向上に取り組む
赤字になったとしても、すぐに倒産や経営破綻になることは少ないです。
立て直せる可能性が残っていそうな場合は、利益を上げて損失を減らし、黒字化を目指しましょう。
利益率を上げるためには、不採算事業や無駄なコストの洗い出し、売上向上の方法などを検討する必要があります。
加えて、赤字になった原因の追究も必要です。
赤字になる原因はさまざまですが、市場の変化についていけないことや競争力の低下、優秀な人材の退職などが挙げられます。
原因を見つけ、それに対して適切な対応を検討することも社長の重要な役割です。
2. コストの削減
黒字化を目指すうえで欠かせないのがコストの削減です。
事業を継続するために必要なコストと、削減すべきコストを見極め、可能な限りコストカットをすることが重要です。
赤字から脱却するために行われることが多いのは、外注費・宣伝費の見直しです。
外注に頼らずに自社で完結させ、宣伝も控えれば大幅なコストカットが可能でしょう。
それでも黒字にならない場合は、人件費のカットに踏み切らざるを得ません。
役員報酬のカットや、リストラも視野に入れて検討する必要があります。
経営者としてリストラはできる限り選びたくない手段ですが、赤字状態が続けばいずれは会社が倒産し、すべての従業員が職を失うことになります。
十分に検討して慎重な判断をしたうえで、必要な場合はリストラも視野に入れておきましょう。
3. 金融機関との交渉
赤字経営になると、基本的に金融機関からの信用は下がってしまいます。
すでに融資を受けている場合は、その返済が滞ればさらに信用性を失うことになるでしょう。
少しでも良好な関係を継続するために、金融機関と交渉して返済条件を変更してもらうことも検討したほうがよいです。
月々の返済額を下げてもらうだけでも負担が減り、経営を立て直しやすくなります。
金融機関側が恐れるのは、会社が倒産して融資したお金が回収できなくなる事態です。
それを避けるための交渉であれば、比較的受け入れてもらいやすいでしょう。
返済不能になってからの相談では手遅れであることも多いため、赤字になったらできるだけ早く金融機関に相談することも社長の重要な仕事です。
赤字は必ずしも悪いことではない
赤字は、入ってくるお金よりも出ていくお金のほうが多い状態です。
しかし、赤字だからといって必ずしも悪いことではありません。
創業時や大規模な設備投資などを行った場合は、出ていくお金が売上を上回りやすく、赤字になることが多いです。
このように原因が明確で、臨時的な赤字である場合は赤字でも悪い状態ではありません。
また、退職者に支払う退職金が多い年であった場合や、災害による事業の一時停止があった場合なども、悪い状態とはいえません。
さらに赤字決算になったことで得られるメリットもあります。
赤字決算のメリットとは?

日本の中小企業は6割以上が赤字で、赤字決算をしたがる企業も多く存在します。
その理由は、赤字決算になると節税ができるからです。
赤字決算は、会社が利益を上げられていないことを示しています。
利益が発生しなければ会社に課される法人税がかからず、最低金額の7万円を納税するだけで済みます。
加えて、課税所得も抑えられることで、法人所得税も節税することが可能です。
赤字分は次期の黒字を相殺することにも使えるため、今期だけでなく次期の節税効果がある点も大きなメリットになります。
この節税効果は、赤字企業を買収した際にも発生するものです。
そのため、黒字企業が赤字企業を狙ってM&Aを行い、節税を狙うケースも存在します。
このように赤字決算には節税面でのメリットがあります。
しかし、赤字である以上は金融機関からの信用は低くなりやすく、必要なときに融資を受けられない恐れがあります。すでに受けている融資の一括返済を求められる可能性もゼロではありません。
赤字決算にはメリットもあるものの、継続するとデメリットのほうが大きくなります。
赤字になった場合はメリットを生かしつつも、黒字化に向けてできる限りの対策を行うことが大切です。
赤字は必ずしも経営破綻に結びつくものではない
赤字にはマイナスのイメージがつきものですが、経営破綻や倒産を意味するものではありません。
あくまでも支出が収益を上回っている状態であることを示している状態です。
そのため、原因がはっきりしていて一過性のものである赤字は深刻ではなく、経営戦略に使えることもあります。
赤字になった場合は、赤字決算による節税効果を活かしつつ、次期から黒字になるようにさまざまな対策を行いましょう。
コストカットや事業の見直しを行うことで経営を立て直せることも多いです。
M&Aに踏み切れば、会社や従業員の雇用を守ることもできます。早ければ早いほど経営再建の選択肢は広いため、可能な限り迅速に行動しましょう。